看護系大学教員の質的研究の知識と実践に関する意識調査(1)質的研究の信頼性と妥当性に関する意識

第24回日本看護科学学会学術集会（2004年12月５日，東京）

看護系大学教員の質的研究の知識と実践に関する意識調査 (1)質的研究の信頼性と妥当性に関する意識

○高木廣文（たかぎひろふみ），西山悦子（新潟大学医学部保健学科）

【目的】　看護研究では質的研究が量的研究に劣らず重要であり，その研究の質，科学性に関しての検討も必要であろう。ここでは，科学的根拠として質的研究の信頼性と妥当性に対する看護研究者の意識についての調査結果を報告し，今後の資料として供したい。【対象と方法】　日本看護系大学協議会会員名簿(平成15度)に記載されている3,745名を調査対象とした。平成15年12月８日～20日に，対象者の基本属性と質的研究の方法についての知識や実践経験などに関する91項目からなる質問紙による郵送調査を実施した。平成16年１月８日～23日には礼状兼催促状を発送した。平成16年２月末日までの回収数は1,118例であった。所属機関からの通知などにより退職や死亡が判明した対象不適格例が12例あり，最終的な回収率は29.9％であった。回答者は男145名（平均年齢49.1歳），女961名（同41.7歳），不明12名であり，このうち996名（89.1％）が看護研究の実践経験を有していた。　看護研究の実践経験者のみに，さらに質的研究の専門的知識の有無に関して回答を依頼した結果，肯定的回答が695名（62.2％），否定的回答が296名（26.5％）であった。肯定的回答者に対してのみ質的研究に関する詳細な質問項目への回答を依頼した。【倫理的配慮】　調査は個人への郵送法であるため，回答は自由意思によって行われている。無記名式かつ調査項目の組み合わせでも個人識別ができないように配慮した。【結果】　「質的研究の信頼性は高いと思いますか」という質問に対して「はい」は22.5％，「いいえ」は6.3％であった。妥当性に関しては「はい」は22.6％，「いいえ」は5.3％と否定的な意見は極めて低かった。　「質的研究の信頼性を高める方法を知っていますか」という質問に対して，肯定的回答は81.7％，「いいえ」は18.3％であった。妥当性に関しては肯定的回答は78.7％，「いいえ」は21.3％であった。「トライアンギュレーションの方法を知っていますか」という質問に対して，肯定的回答は47.5％であり，「いいえ」が52.5％と若干多かった。　質的研究の信頼性を高める方法の実践については，「はい」が50.7％であり，妥当性を高める方法の実践については，「はい」47.3％と半数以下であった。トライアンギュレーションの方法の実践については，「はい」は13.7％と極めて少数であった。　実際に信頼性を高めるように研究の実践している群では，30.8％が信頼性が高いと回答しており，実践していない場合の14.1％と大差があった。妥当性に関しても同様であり，実践群では28.9％，非実践群では16.7％が，妥当性が高いと回答していた。トライアンギュレーションの実践－非実践群間の比較でも，信頼性と妥当性に関して同様の結果であった。【考察】　質的研究の信頼性と妥当性について，否定的な意見は極めて少数であった。７割程度の研究者は中間的な立場であったが，２割強が質的研究についてその信頼性や妥当性を確信しているものと考えられた。さらに約半数の研究者が実際に信頼性や妥当性を高めるように研究を実践し，その場合には研究の信頼性や妥当性をより高く評価する傾向が認められた。トライアンギュレーションの実践はそれほど多くはなかったが，質的研究の実践により，看護研究者が質的研究の質に関して，高く評価するようになるものと考えられた。なお信頼性と妥当性という量的研究での用語を使用したこと，信頼性と妥当性に関して質的研究一般に対する質問形式について，その問題点等を回答者から指摘された。　調査にご協力いただいた看護系大学教員の方々に深謝致します。（本研究の一部は，平成15年度・16年度科学研究費補助金（基盤研究Ｂ(2) 課題番号15390660）による）